”余生の夢”

 退職後、他社に勤めようか、個人事業主になろうか迷ったが、今までの経験を生かして、自分でやってみようかと思い、2005年6月に個人事業主として独立した。

 今まで、29年に渉る会社勤めで、自分にとっての会社の存在価値が分からない部分があった事を、あらためて思い知らされる事になる。
一般的に、辞めた会社から仕事をもらって開業する事が、“のれんわけ”のような感じで多いだが、私の場合、それをしなかったので、仕事を確保する事が難しく、重ねて、会社が半額負担だった厚生年金や健康保険や税金等が、どかーっと背中にのしかかり、個人の考えの甘さを思い知らされる事だけになった。
 家内に借金して、大学に通う二人の息子の学費や仕送り、開業するに当たり購入した
3次元CADCAMソフトの支払い、住宅ローンの支払い、正直、今、ギリギリである。

 しかし、悪いのは、全部自分である。己を喜ばせるのも、苦しめるのも、悲しませるのも、全部自分の仕業であって、人は関係がない事を、あらためて、思い知らされる結果に終わった。
そんな中で、今は、個人事業主として、この一年やってみて良かったと思う。
 生意気ではあるが、少しだけ、会社側と従業員の両者を考えられるようになった事と、己の“のぼせ”や“うぬぼれ”が、破滅の入り口である事を、学ぶ事が出来たと思うので、今後は、地道を貫き、もっともっと、人に奉仕貢献していこうと思っている。

 以前は、自分で苦労して習得した技術を教える事に、抵抗があった。だが、今は、
どんどん教えて、日本の技術向上の為に少しでも役に立ちたいと思う。
 
 自分の外に出て冷静に客観的に考えても、私のように、手作りの“やすり”や“きさげ”仕上げの経験を持ち、3次元のCADCAMを使いこなし、マシニングセンターやワイヤーカットをプログラムも加工も実務して、プレストライ、玉製まで手掛けた職人は、あまりいないと思う。
パート、パートのエキスパートは、たくさんいると思うが。

  とにかく、これからは、次の売り上げを上げてもらう世代の人材の育成と、日本の技術レベルの向上、その会社の、独創的で世界レベルトップの金型作りの研究がやらせてもらえたらと、熱望する。 
“プレス加工では不可能!”っと言われる、切削加工部品などを、プレスで加工出来るようにしたり、短納期へのあくなきチャレンジなど、あと、20年くらいは頑張れると思う。また、それが夢である。